カオスマップで「〇〇」はできません

*本記事は 高橋龍征氏のnote記事をご本人の許諾を得たうえで加筆/転載した記事となります。
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カオスマップについて話すとよく以下のような「〇〇はできないんですか」と聞かれます。

 

「シェア」「バリューチェーン」「ビジネスモデル」「競争戦略」「ポジショニング」「定性的な説明」・・・

 

結論から言うと「できません」。

 

マップで表されるのは「スライドとタイトル(範囲)、ロゴ(絵)、枠線と単語(カテゴリ)」だけです。

構造、定量・定性情報は表せません。
他の表現手段を使うのが妥当です。

 

大きさ→パイチャートや棒グラフ
構造・流れ・位置関係→各専用フレームワーク
文字での詳細説明→レポート
付随情報→リスト

 

ツールを手に入れると、使いたくなる

 

「ハンマーしか持っていなければすべてが釘のように見える」というように、ツールを知ると何にでも使いたくなります。

冒頭の「カオスマップで〇〇は表せないのですか」という質問は、カオスマップという「ツール」の用途や制約を考えず、自分の表したいことを表わせないのか聞いているようなものです。

あらゆるフレームワークは「何のために何を表すのか」を絞り込む裏返しとして「表せないもの(割り切られたもの)」があります。

カオスマップもフレームワークである以上、同じです。

 

本稿では、カオスマップを作ろうとする人が考えがちな「これできないの?」について、カオスマップの特性に照らし合わせてできない理由を説明します。

「出来ないことをやろうとあがく」時間をムダに使うことを回避することに貢献できれば幸いです。

 

 

カオスマップの要件と制約

 

カオスマップとは「業界の商品やサービスをカテゴライズして一覧化したもの」で、以下のようなものです(出所:シューマツワーカー)。

 

 

より具体的にはこう表現できます。

 

特定業界全体観を伝えるために、範囲内にある主要プロダクトロゴを、それを読み手に意味あるよう区分して1枚のスライドに載せた、フレームワークの1つ。

 

以下のように要件を整理すると、できないことが見えてきます。

 

業界:ある一定の「範囲」を定める
一覧化:「全体観」が情報としての価値
商品・サービス:原則「プロダクト」掲載
ロゴ:プロダクトを「絵」で示す
カテゴライズ:違いを「枠」で括る

大きさは表せない

 

「シェアを表せないか」「売上や利益の相対的な大きさを表せないか」というのがよくある質問です。

 

冒頭に述べた通り、カオスマップが表すのは以下の3つです。

1)スライドとタイトル(範囲)
2)ロゴ(絵)
3)枠線と単語(カテゴリ)

 

そこに「数字」はないので、定量情報は表現できません。

よく「売り上げなどに応じてロゴの大きさを変えてはどうですか」とも聞かれますが、情報としての価値を全く持たないものになることはすぐに分かります。

 

カオスマップは新興企業を把握する意図で使われることが多いので、売上1兆円の大企業と1億円に満たないスタートアップを同じ1枚のスライドに乗せたらどうなるでしょう。

自動車関連サービスなら、スライドはトヨタ・日産・本田のロゴで占められ、周りに何か視認できないツブツブがあるだけになります。

そこまで極端ではなくても、大きなロゴを作れば本来載せられたはずのロゴを落とさなければならず、マップの「網羅性」という情報価値を損なうことになります。

 

数字を直感的に見せるためのツールはいくらでもあります。

シェアを見せたければ円グラフ、推移なら棒グラフを使うのが妥当です。

数字の比較に意味を持たせるなら、比較対象を絞って、インフォグラフィックスで際立たせる方が良いです。

目的に合った適切な表現手法を選びましょう。

 

構造は表せない

 

マップにあるのはロゴとそれを括る枠線だけです。

川上・川下でカテゴリを括り配置を工夫するくらいはできますが、構造そのものは描けません。

よって、バリューチェーンやビジネスモデルのような構造も表せません。

バリューチェーンはそのチャートそのものに落とし込めばよく、無理にカオスマップにはめる必要はありません。

同様に、ビジネスモデルはビジネスモデルキャンパスなどを使うべきでしょう。

但し、カテゴリはビジネスモデルで分けるのが基本で、マップ作成には必須の情報です。

調査を通じて業界のプレイヤーのビジネスモデルを網羅的に把握できることが、マップ作りの価値という面もあります。

表せない=重要ではない、ではありません。

 

ポジション(相対位置)は表せない

 

例えばtoB⇄toC、川上⇄川下、のように2軸で切った4象限を作り、その相対的な位置関係でポジションを表せないかと考えることもあります。

実際、私が最初に作ったマップには2軸を入れましたが、バージョン2からは外しました。適切に配置できず、意味もないし、誤解を招きかねないからです。

なぜかというと、マップは1枚のスライドに網羅的にロゴを詰め込む方が優先され、軸の上での相対的な位置関係を表すための空白は作れないからです。

また、カオスマップの情報価値の1つは「網羅性」で、2軸で割り切れないものも載せなければなりません。

軸で区分できないサービスを載せれば軸の意味がなくなります。

ツール本来の目的を考えれば、網羅性が優先されるので、軸を落とすのです。

ポジショニングから競争上の示唆を導き出したいのなら、カオスマップではなく2軸のポジショニングのチャートを使うべきでしょう。

 

「網羅性」は自己満足か?

 

興味深い質問に「マップにサービスを網羅しなければならないというのは作成者の自己満足ではないか」というものがありました。

この質問者がなぜ網羅性が気に食わないのかというと、比較から意味を抽出するには対象を適切に絞るべきと考えるからでしょう。

これも「ハンマー-クギ」思考です。

ポジションから示唆を得る目的なら、カオスマップではなく、2軸のマップを使うべきです。

その場合「網羅性」は重要ではないので、比較すべきプレイヤーのみ選び、位置関係にも意味を持たせます。

比較の意味を持たないものまで載せると、分かりやすさを損ねる雑音となり、情報として無意味になります。

一方、カオスマップの情報価値は、ある範囲の全体観が分かることです。読み手は全てのプロダクトが載っている「網羅性」を期待します。

読み手が「この業界にはこのプロダクトが入っているはず」と考えるものが抜けていれば、「このマップは、載っているはずのものが落ちている」不完全なものだと思われ、信用を失います。

マップの読み手は複数

また、特定の企業への戦略提案なら読み手は1者ですが、カオスマップは複数の属性の人を読み手として想定します。

マップを拡散してもらうには、SNSで流れてきたマップを見た人に「お、これは役に立つ」と直感して、反射的に「いいね」やシェアで拡散したくなるものでなければなりません。

より多くの人に拡散してもらうには、特定の1属性の人だけでなく、より幅広い人の関心をカバーしていなければなりません。

複数の読み手に取っての網羅性が必要なので、掲載されるプロダクトが多くなるし、カテゴリ分けも妥協の産物とならざるを得ないのです。

 

3以上の階層やカテゴリの重なりを入れるべきではない

 

本来、知恵を絞って競争優位を実現する差別化に知恵を絞っている以上、各プロダクトは単純なカテゴリでは括れないはずです。

しかし、まず全体の状況を概ね的確に伝えることが目的のツールに、細かな違いを入れれば、情報価値を損ないます。

詳しく調べて知りすぎると、その優先順位を忘れ、細かな違いを過度に正確に表そうとしたくなります。

考えがちなのが、カテゴリの階層を深くすること。

「これは、不動産テックの中の流通の中のセカンダリーで取り扱うのは商業用物件で・・・」というのをそのまま何重もの枠で表そうとしてしまうのです。

調査・分析の過程では掘り下げるべきですが、情報としてまとめるときは割り切らないと、相手には伝わらないものになってしまいます。

 

カテゴリは基本1階層

 

1枚のスライドで表すという表現上の要件を考えれば、基本は1階層にすべきです。2階層も許容範囲ですが、一覧でわかりやすくするためなど、必要性が明確に説明できる場合に限るべきです。

冒頭例示した「副業カオスマップ」は、読み手の属性や関心によって見るべき場所が異なるでしょう。

また、各カテゴリにさほど多くのプレイヤーがおらず1階層にすると細かな枠ばかりになるから、2階層にして枠を大きくして見やすくしたのだと推測します。

不動産テックの場合は、調べる中で細かな違いが見え過ぎてしまっていたので、業界に詳しいベンチャーキャピタリストの方にリストを渡し、その人にカテゴリを分けてもらいました。

 

カテゴリ枠を重ねようとすると破綻する

 

1つのサービスが複数のカテゴリに入ることもあります。

これを正確に表そうと、ベン図のようにカテゴリの枠を重ね、あるロゴが2つのカテゴリに入るようにすると破綻します。

他もそうしないと矛盾が生じますし、全てのプロダクトをそのように正確に括ろうとすれば、スライドという2次元の平面では表せません。

無理にやれば、一眼見ても意味がわからない、情報として価値のないものができてしまいます。

 

同じロゴを2ヶ所に載せても問題ない

 

この問題の解決策は単純です。

同じロゴを2ヶ所に載せてはならないルールなどないので、それが両方のカテゴリに入るべきならそれぞれに入れればいいです。

片方のカテゴリにおいては取るに足らないものなら省けば良いです。

これも「全体観」から判断すれば明確でしょう。

 

厳密さより分かりやすさ

 

さっと見たときの全体観と妥当性があれば、マップは十分です。いい加減ではだめですが、厳密さのために分かりやすさを犠牲にしないということです。

MECE(もれなく、ダブりなし)やApple to Appleなど厳密な正確さがないことを気にする人もいますが、マップはリサーチの最初期に、まずざっくりと全体像を把握するのに使うものなので、それでいいのです。

不要な厳密性を求めるのは「ハンマー-クギ」思考です。

 

カテゴリ同士がApple to Appleである必要もない

 

「パッと見た時の全体像の分かりやすさ」がマップに求めらるものです。

カテゴリそのものが厳密かつ論理的にあることは、その「分かりやすさ」を実現するために必要なレベルで十分です。

不動産テックのカテゴリでも、「マッチング」などビジネスモデルで括っているのもあれば、「AR/VR」のようにテクノロジー括りもあります。それが読み手に意味がある括りならそれでいいのです。

また、大きな業界のくくりの中でも、寡占が進みやすい分野もあれば、小規模のサービスが並立しやすい分野もあります。両者を同じレベルで括ろうとすると、後者は1つの枠内に100以上のロゴが入ることになります。

数のバランスが悪いなら、数の大きいところはカテゴリの定義をもう少し細かくして分割し、少なすぎるところはまとめてしまって、数=枠の大きさのバランスを妥当な範囲に収める方がいいでしょう。

Apple to Appleは損なわれますが、マップの目的である分かりやすさの観点ではその方が妥当です。

なお、分かりやすさを優先することは、分析が浅くて良いということにはなりません。

 

分かりやすさと分析の浅さを混同しない

 

本当に良いマップは、深いところまで考えぬいた上で、業界のプロも含む多様な読み手の関心と利用シーンに合わせ、このツールが本来もつ情報としての価値を最大化するように「割り切る」ものです。

プロであればどこをどういう理由でどう割り切ったのか分かります。知識や分析が浅いものと、意図に基づく割り切りはすぐに見分けられます。

素人に分かりやすいのは当然のこと、プロにとっても納得感と発見のあるものでなければ拡散はしないし、メディアに取り上げられることもないでしょう。

レベルの低いマップを公開することは、能力やモラルの低さを自ら晒す行為になりつつあり、実際炎上しているのも見るので、注意しましょう。

 

説明や付随情報は書けない

 

マップに載せるのは基本ロゴ(絵)で、文字はタイトルとカテゴリ名だけです。

詳細説明をしたければレポートを出せばいいでしょう。

実際不動産テックのマップを出すときは、その分野で何本かレポートを公表していたコンサルタントを探し、その人に調べたリストや完成知ったマップを共有し、調べて分かったことをレクチャーして、レポートを書いてもらいました。

マップで表わせない論理てきな説明や付随情報を文字や他の絵図で補強して示せれば、情報としての価値が上がります。

また、会社の基本情報などはスプレッドシートのリストで公開すれば良いです。

余談ですが、ある分野で1,000以上のプロダクトが載った「マップ」が公開されています。

ここまでくると見て分かる情報がないので、マップとしての価値はありません。

殆どリストなので、本来はスプレッドシートで公開されるべきです。まあ、人目を引いてメルマガの登録など、別のところに誘導するためのフックなのだとは思います。

 

まとめ:ツールは目的・要件・制約に合わせて使う

 

カオスマップとは、特定業界の全体観を伝えるために、範囲内にある主要プロダクトのロゴを、それを読み手に意味あるよう区分して1枚のスライドに載せた、フレームワークです。

表現としては、スライドとタイトル(範囲)、ロゴ(絵)、枠線と単語(カテゴリ)しかないため、大きさ、構造、ポジション、説明や付随情報などは表せません。

また、一定の「範囲」の「全体観」がさっと見て取れることが最も優先されるべきことであり、その情報としての価値を損なうような表現を避けるよう心がけましょう。

カオスマップというツールがあるから自分のやりたいことに当て嵌めようとするのではなく、自分のやりたいことに合わせて最適なツールを選ぶというのが基本です。

 

 

 

◆執筆者 高橋龍征 / Takahashi Tatsuyuki

conecuri合同会社 代表 WASEDA NEOプロデューサー 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授

大手システムインテグレーターの営業、経営企画を経験後、MBAを経て、ソニー、Samsungで事業開発を中心としたキャリアを歩み、事業創造支援家として独立。インキュベーター立ち上げや欧州企業の日本進出を支援後、スタートアップ共同創業(取締役COO)を行う。

早稲田大学の社会人教育事業「WASEDA NEO」プロデューサー就任を機に、事業開発や人材育成のためのセミナーづくりを本業とし、大学、企業、メディアからの受託や自身主催で、年間200件の企画を実現するようになる。

2020年、conecuri合同会社を設立。マーケティングセミナーの企画、社会人向け講座や企業研修の開発、それらを通じた事業創造を支援している。

新型コロナを機に、セミナーを一気にオンラインにシフトさせ、その知見を『オンライン・セミナーのうまいやりかた』として出版した。

また、13年以上複数のコミュニティ運営に携わる実践家として、大手企業や学校のコミュニティづくりも支援している。

早稲田大学 第一文学部 哲学科 東洋哲学専修 卒業 早稲田大学大学院 ファイナンス研究科 修了 青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム 修了 JVCA ベンチャーキャピタリスト研修 修了

 

 

◆著者プロフィール

株式会社まーけっち 代表取締役社長 山中思温

マーケティングリサーチのシステムとデータの提案営業を経験後、 最年少で事業部を立ち上げ、若年層国内ナンバーワンのユーザー数を達成。
リサーチの重要性と併せて、コストや施策への活用の課題を痛感し、中小・スタートアップでもリサーチやマーケティング施策の最適化をより手軽に利用できるようにする為、リサーチ×マーケティング支援事業の”株式会社まーけっち”を創業。

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